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| 伝統航海術とは、自然界を読み取ることです。純粋に生き残る必要性のため、周りの自然環境を総合して認識し、理解するのです。天体のこと、大気、気候、海のこと、クルーや自分自身のこと、すべてを…。もし天候がいつも同じだとしたら、難しくはありません。けれど、天候はつねに変化しますから、ナビゲーターは、その変化に対応できる知識と能力が必要とされます。同時に、自分が今、海のどこにいるのかを把握するための記憶力も必要です。時計もコンパスもありませんから、速度、方向、航海時間を、自分の体で確実に記憶しておくのです。マウ氏はタヒチへの初航海を前に、ホノルルのビショップ・ミュージアムのプラネタリウムで“星の歌”を作成し、歌で航路を覚えたといいます。 |
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| 甲板で作業を行うナイノア・トンプソン氏。航海中、絶えず神経を研ぎ澄ませ、星や太陽、波や風など船を導く手がかりである自然と対峙する必要があるナビゲーターには、自らの精神力や体力の限界を把握し、マネジメントする能力も必要とされる。 |
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精神的にも肉体的にも、大変厳しい状態を保つ必要があるということですね。 |
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はい。例えば30日間の航海に出た場合、ナビゲーターがとる睡眠時間は通算2~3日間ほどです。思考できる限りは観察を続け、精神的に疲れ果ててしまったら、すぐに横になります。頭がクリアになるまで休息しますが、その時間は20~30分というところでしょうか。夢を見始めたら起きます。マウ氏は「横になっているけれど、内側は眠ることはない」と言っていました。緊張とリラックスのバランスを上手にとる方法を得ておくことも大切なのです。
私は、プライベートで、なにか行き詰ったり、神経質になったときには、自宅近くの海へモーターボートに乗って出かけることにしています。星空の下――すべてが偉大であり、すべてが遠くて永久的である場所――にいると、思考が大きくなり、ビジョンが広がるもので。 |
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伝統航海術の大半は、技術や知識とは異なる、“内なる旅”であるとも語られていますが。 |
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私たちが伝統航海術について説明する場合、星を見たり、波を見たりといった、目で見えるものに関しての話になってしまいます。けれど、数千キロに及ぶ航海を成功させるには、それだけではない“内なる旅”が必要です。
私が初めてヘッド・ナビゲーターとして「ホクレア号」に乗船したときの話ですが、一面が雲に覆われた無風地帯へ入ったことがありました。天にある目印も、海のうねりも見えない盲目の状態が続き、科学や数学といった机上の訓練を超えた状況にありました。私はその時25歳で、クルーに「わからない」と正直に伝えるには若く、しかし、隣にいるマウ氏に相談することは、彼の指導者としての成功を思えばできないことでした。やがて雨が降り始め、強風も吹き始めました。
どこに流されていくのか読めない状況に疲れ果てて、手すりにもたれかかったときのことです。なにか温かな感覚を覚え、見えない月を感じました。「目で見ないで、言葉を内側に見つけなさい」という、マウ氏の教えに入った瞬間だったと思います。私は、心の中の月を追って、針路をクルーに指示しました。贈り物のように、空にぽっかりとあいた穴から覗いた月の美しさは、忘れることができません。 |
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カヌーを通じて、子供たちへの教育にも、力を入れていらっしゃいますね。そのきっかけは? |
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| 「ホクレア号」は、伝統航海術を駆使して航海していますが、船体の一部にはグラスファイバーという化学素材を用いています。そこで、私たちは2隻目の航海カヌー「ハワイロア号」には、より忠実に当時を再現した木造航海カヌーを望みました。しかし、船体を作るにふさわしいコアの巨木を、ハワイで見つけることは不可能でした。コア・アカシアの原生林は90%以上伐採されていたのです。結局、「ハワイロア号」は、アラスカのクリンギット族から提供された原木で作られました。彼らが敬ってきた樹木を伐採する矛盾に苦しみましたが、決断したのは、ハワイ文化再興の意義を、私以上に理解していたクリンギット族の想いからでした。そして「人の樹を伐採する前に、自分の樹を植えに行きなさい」というハワイの長老の言葉に従い、カヌー学校の生徒たちと、11000本のコアの種木を植樹することにしたのです。 |
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ハワイの生態系がおかれている不健康な状況を、カヌー作りによって気づき、それを子供たちに伝える必要を感じられたということですね。 |
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| ハワイに限らず、最近の子供たちは、自然の中に放り込まれ、恐怖に向き合っていくうちに身についていく、苦難を乗り越える力の学び方が不足しているように思います。カヌーは、その点で偉大な教室になるのではないでしょうか。そしてまた、自分が故郷と呼ぶ土地の健康が、自分自身の健康であるということを、もっと知らなくてはならないと思います。 |
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| 船上で、若者たちに指導を行うナイノア・トンプソン氏。伝統航海術を再現させることに成功した今、後継者を育成し、ハワイの伝統文化が未来へと受け継がれる環境をつくっていくことが、次なる大きなテーマとなっている。 |
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最後に、日本への航海を待つ声も多いのですが、予定はいかがでしょうか。 |
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| 以前から検討はされていますよ。というのも私の父が、それを強く望んでいるのです。私が幼少の頃、農園で忙しく働いていた両親は私たち兄弟を、近所に住む日系2世の漁師、カワノ・ヨシオさんに、しばしば預けていました。ヨシさんの家はけっして広くなく、経済的にも厳しい環境を強いられていましたが、日本式の家具を使い、日本的な生活を続けていたファミリーの姿は、故国への誇りにあふれていました。彼らの生き方に触れることで、私は、自分の民族に誇りを持ちながら、他の文化を共有し、自然に感謝する心を教わったのです。感謝の言葉を告げたい方が世界中にいるもので、具体的な約束はまだできないのですが、「ホクレア号」の日本への航海プランは間違いなくあります。近い将来、お会いできることを、心から楽しみにしています。 |
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